敵は我にあり
キックオフから39秒だった。
SO前田がタッチを狙い気味に左中間へ絶妙なキックを転がした。
ライン沿いを忠実にチェイスしてきたFB鳥原が芦屋DFに競り勝ち、タイミングよくボールを拾い上げそのままインゴールへ。鮮やかに六甲ファイテイングブルが先制した。
芦屋クラブとの「兵庫ダービー」。打倒・六甲に執念を見せる好敵手に、いつも苦戦を強いられている。
「昨年もそうでしたが、芦屋さんとはいつも立ち上がりが悪い。朝早いゲーム(10時キックオフ)ということもあり、キックオフから爆発できるよう、アップから集中を高めました」
出勤で欠席の谷主将に替わりチームキャプテンを務めるCTB玉川副将の言う通り、六甲戦士は序盤から抜群の集中力を見せる。
4分にはラックの連取から左に展開。FB鳥原→№8中村→鳥原と、芦屋デフェンスを翻弄。
最後は鳥原から再びボールを受けた中村がゴールに回り込んだ。
先週の奈良ムース戦では体調不良で前半途中で退いた中村。この日はいつも以上に攻守に体を張りチームを勢いづかせる。16分には相手二人に絡まれながらも体幹の強さを発揮して大きく前進。早くも自身2トライ目をあげる。
リーグ初戦を落としている芦屋クラブ。本来の球際でのしつこさを見せ始める。中途半端なダウンボールや、2人目のスイープが遅いとたちまちターンオーバーから反撃を仕掛けてくる。何度か危ない場面があったが、伊藤、中村の好タックルや、SO前田の好判断もあり常に敵陣で有利に試合を展開する。
34分。ラインアウトからモールを組んでドライブしてトライ。20-0とする。
前半終了間際、味方も本人もビックリの時間がやってきた。
互いの蹴りあいからボールがスッポリと闘犬PR加村の腹の上に入り込んだ。ずんぐりした体を回転しながら前に出ると目の前に誰もいなくなった。必死の形相で約40メートルを走り抜けゴールに転がり込んだ。試合開始直後にドンピシャのタックルで気をよくした「トーキングプロップ」。プロップに走られてのトライは相手に予想以上のダメージを与えていく。
「最初の入りもよかったし、いい流れで来ています。」
27-0でのハーフタイム。玉川キャプテンは切り出しさいた。
「後半、まだまだできますよ、もっと走りましょう!」と仲間を引き締める。
「アップからの準備がよかったから、リラックスして初めから爆発できたな」
と北迫コーチ。FWにスクラムでの修正点を与えた。
後半、ここで負けたら全国大会が厳しくなる芦屋が反撃を仕掛けてくる。六甲は防戦一方の時間が続いたが、後半16分、芦屋陣ゴール前ラインアウトで、サインミスからFL伊藤がゴールに飛び込むと、このたりから次第に芦屋の声が小さくなっていった。
34分にはデフェンスを翻弄してWTB三木がトライ。
40分にはSH瀧村が右隅に走り切り、ロスタイムには再び三木がトライを決めて53-0のノーサイドとなった。
「最初の入りも良かったし、セットプレーも良かった。先発を勝ち取ったメンバーや、途中から入ってきたメンバーが必死にアピールしてくれたので、チームはいい流れで来ていると思います」
と玉川キャプテン。数週間前の強化試合で関学大に惨敗してから、チーム全員が危機感を持って取り組んでいることに手ごたえを感じているようだ。
「ここから大事になるのが、全国大会をどれだけ意識したプレーができるか?ここ数年僕らは後半に逆転されて4強どまり。最後まで走りぬく、一つのミスが全国では失点、敗戦につながることを、全員が改めて認識することが大事だと思います」
と、さらなる上積みを見据えた。
「ええ試合やったけど、まだまだいけるし、もっとできると思う。それはFW・BKでわかってると思うので、各個人でしっかり反省してほしい。これからタイトな試合でも今日以上のプレーができるように、選手はもっと努力をしてほしい」。
北迫コーチも、現状に満足することなく、レベルアップが必要と、完勝のチームムードを引き締める。
この日、早朝の試合にも関わらず、50人近くの選手・スタッフが集まった。23人のメンバーが試合で最高のパフォーマンスを発揮できるよう、残りのメンバーはサポートに務めた。
選ばれなかったメンバー、試合でもフル出場以外のメンバーは、試合後のフィットネスで自分を追い込んでいた。
試合を重ねることに、結束もさらに固くなる。
六甲ファイティングブル。
今はただ走り抜けるのだ。
(三宮清純)