感動を力に
全国大会2回戦vs調布三鷹オールカマーズ。六甲ファイティングブルはセカンドジャージーでの戦いだった。
「この試合が(新セカンドジャージー)お披露目となります。このジャージの裏には着たくても着れない人や支えてくれる人の思いがある。これからも永く続く六甲の歴史に、このジャージに刻んでいこう!」
アップ前の「ジャージ授与式」で谷主将の言葉に出場する六甲23戦士は気持ちを新たにした。
ロッカールームを開けた瞬間、ピッチまで長い拍手の一本道が出来上がっていた。
六甲のベンチスタッフだけでなく、前の試合を終えたばかりの文の里クラブのメンバーが選手を待ち構えてくれていたのだ。
「六甲頑張れ!」「行け六甲!」
大学ラグビーでは関西名物となっている「送り出し」。近畿リーグで激闘を展開した同じ関西の仲間が、自分たちの負けた悔しさをグッと胸にしまい込んで拍手で送りだしてくれた。まだ見ぬ強力FWの三鷹と対戦する選手にどれだけの力を与えたことか。改めてラグビーの持つ力と素晴らしさに胸が震えた瞬間だった。
「この試合のメンバー選考は本当に悩みました」と谷主将が話していたが、6人の選手が『全国デビュー』を果たした。
まずはLO青山。もっともこの男、北大生であった昨年まで北海道バーバリアンズでプレーしていたので、緊張というのはなく、試合前でも「楽しみで仕方がない」と笑顔も見せていた。
「前半はミスが多かったけど、後半最初の入りで相手を突き放すことができてよかった」
やや不器用な面もあるが、仕事量も多く自らトライもあげる活躍を見せた。
「前のチームの時から(準決勝の)タマリバは意識するチームです。必ず勝って、決勝ではバーバリアンズと試合ができるようになったら最高です」と意気込んでいた。
六甲3年目で念願のメンバー入りを果たしたのがFL福島勇だ。
もともとのポジションだった「FL」をカミングアウトしての2年目。リーグ戦などでのアピールが実った。「メンバー発表の後に、兄貴(福島清)から、“おめでとうライン”もらいました!」
写真は兄のフォローに入る弟。故郷のご両親も喜んでいるに違いない。
前評判通りの動きを見せたのはFL中村。攻守のあらゆる局面に顔を出し、チームに貢献。オトはじめ三鷹の大型FWにも、真っ向から倒すタックルには会場からどよめきが何度も聞こえた。
「今日は全体的にミスが多く、相手にボールを長く持たせてしまう時間が長かったと思います。あと不用意なブレイクダウンの反則も課題ですね」
と試合後の分析も的確だ。
「個人的にはもっとボールタッチを増やし、運動量をあげていきます。準決勝に向けて課題をクリアにしてしっかり準備をしていきたいです。そして日本一という目標を必ず六甲クラブの仲間と達成します‼」
次戦から敵のプレッシャーもきつくなると思うが、チームの為に体を張るということはこういうことだと、具現化するのがこの男。05~08年度に主将を務めた“ミスター六甲”伊藤康裕をほうふつさせる人見知りも、面白い。
近畿リーグの開幕戦で負傷。長いリハビリ期間を経て戦列に戻ってきたのがSO亀谷だ。
「初の全国大会でしたが、勝てたことにホッとしてます笑。試合で出た個人とチームの課題をしっかり修正して万全の状態で試合に臨みたいです」
関学大時代より国体メンバーとして六甲メンバーとも交流があったことから、今季初めからチームにいち早く溶け込んだ「カメちゃん」。準決勝には「(メンバーに)選ばれるかどうか分かりませんが」と控えめに前置きしながらも、「六甲クラブに関係する全ての人に恩返しできるよう、精一杯頑張ります!」と力を込めた。
無印ながらタックルでチャンスをつかみ、激戦区のWTBの先発を勝ち取った市橋。
「とても緊張しました(苦笑)。とにかくチームが勝ててよかったです」。
試合前半は緊張からか、体が思うように動かなかった。結果的にトライを奪われたミスを悔やんだ直後のキックオフタックルは凄まじいものがあった。
リアクションの速さ、最後まであきらめないデフェンスでポジション争いに活性化を呼んでいる。
「準決勝もメンバーに入れるように、毎日を大切に過ごしたいと思います」
幾たびのケガを乗り越えて、先発の座をつかんだ男がCTB拝原だ。3年前、全国直前の練習試合で痛恨の負傷。その後も復帰、故障を繰り返してきた。冬の強化試合で猛アピールしてのメンバー入り。
「やっとこの舞台に立てたな!という感じでした」。前半、ややチームのつなぎがややチグハグな中、反撃を告げるトライ、コンバージョンもしっかり決めた。
後半早々、無念の途中退場。チームに重苦しい雰囲気が漂ったが、相手のクラッシュプレーを猛然と止めた拝原に、仲間のスイッチが入ったのか、トライラッシュが始まった。
「退場してしまったけど、やっぱりあの緊張感を久々に味わえてよかった。諦めずにやってきてよかったです」。
体を万全に戻して、またチャンスを狙うつもりだ。
後半最初に集中力を発揮。合計9トライを上げて勝利はしたが、終盤にトライを重ねられてのノーサイドに、谷主将も
「最後の5分、プライドが感じられなかった。(反則の繰り返しは)相手の開き直ったプレーに付き合い、どこか必要な焦りがあったかもしれません。」
と自分たちを戒める。勝ちはしたが、内容に満足している選手は誰もいないだろう。
「意地とプライドを全面に出さなかったこと。これは反省点です」。
1年ぶりに戻ってきた準決勝の舞台。大一番を前にいい経験を積んだと思いたい。
決戦まであと11日。選手・スタッフそれぞれができる限りの準備を重ねていく。
(三宮清純)
※写真の一部は小川高志さんにご提供頂きました。