死闘の先にあった運命
後半43分。タマリバ陣左中間から左寄り35㍍付近。ラストワンプレー。
ピーンと張り詰めた緊張感と静寂の中、六甲SO亀谷は蹴りぬいた。
しかしボールはいつものような放物線は描けずにポストの少し前へ。やがてノーサイドを告げる木村レフリーのホイッスルが鳴った。
10対10。東西のトップクラブが互いのプライドをぶつけ合った死闘に、場内から惜しみない拍手が送られた。
1年ぶりに帰ってきた準決勝の舞台。同じ瑞穂ラグビー場。同じ神奈川タマリバクラブ。
この日の為に多くのものを積み重ねてきた。ロッカールームに広がる心地よい緊張感。選手は自信みなぎる表情に満ちていた。
「このジャージを着られない仲間たち。支えてくれる人たちの為にも、80分走り切ろう。絶対に勝つぞ!」
円陣で谷主将の一声のもと、六甲戦士が勝負のピッチに飛び出していった。
風下からのマイボールキックオフ。雨とぬかるんだピッチ状態で、互いにBKに切り札を持つが近場での勝負が多くなる。展開すればチャンスと思えた場面も、かじかんだ手と濡れたボールが滑り、互いに「我慢比べ」の様相となる。![]()

そんな中、WTB三木が突破口を切り開く。前半7分左に展開したボールを受け取り内に切り込む。マークの厳しいタマリバ防御を巧みにかわして左中間に飛び込んだ。
「六甲に入って4年目。何としても決勝に進みたい」(WTB三木)
亀谷のゴールはわずかに外れたが、5-0と六甲が先制する。
タマリバも負けていない。不惑になっても衰え知らずの⑩福田の巧みなゲームメイク、⑥高、⑦小橋川、⑧安倍の若く激しく鋭い3列が激しいブレイクダウンで火花を散らす。19分、少ないチャンスからラインアウト&モールで左隅トライを返され、5-5と勝負は振り出しに戻った。
この試合に、人一倍燃えている男がいた。CTB寺田だ。「(去年の準決勝は)俺のシンビンで負けたんで、絶対やってやる!」とリベンジに燃える猛牛CTB。額にコブを作りながらも、何度も何度もクラッシュを繰り返しタマリバ防御を崩しにかかる。
玉川の足元には製造中止になってから久しいコンバート社製のスパイク。「大事な試合だけ」と、立命大時代から大切に履き続けた“相棒”とあげたトライで再びチームを勢いづかせる。
その後も敵陣で有利に試合を進めていく六甲だが、タマリバは素早い帰りと鋭い防御でこれをしのぐ。密集で沸き立つ両者の湯気が熱戦を苛酷なものに変えていく。
ゴールが近いようで遠い六甲。10-5でのハーフタイム、昨年と同じような展開となった。
「相手のペースに合わせず、スクラムのコントロールとブレイクダウンにあまり人をかけずに規律を守りながらゲームができている」と北迫コーチも評価するように、雨の中でもまずまずの試合内容に、ロッカールーム内での修正を確認していく。
「後半、もう一度0-0から(意識して)スタートしよう。相手はウチが足が止まると思って絶対に回してくる。本当の勝負はここからやで!」(谷主将)
前半、耐えて耐えて、後半途中から突き放していくのがタマリバラグビー。事実、六甲は昨年ラスト10分で逆転を許し、全国初戦でも終了間際の反則や失点が多く、そこが六甲のウイークポイントでもあった。
後半早々も六甲は敵陣に入り込みモールでプレッシャーをかける。しかし、スリッピーな細かいミスやゴール間際のタマリバの防御に得点することができない。
鈍い衝撃音と、激しいブレイクダウンの攻防。両者のプライドが激しくぶつかりあい、時間はあっという間に20分が過ぎた。
「勝負は後半残りの20分」。六甲はリザーブの№8小野、CTB村尾を投入し、攻撃のアップを仕掛けようとするが、直後の21分、ファーストプレーで村尾がレイトタックルで痛恨のシンビン一時退場。六甲は一気に大ピンチに陥る。
まるで昨年と同じ様相を見ているようだったが、仲間のミスを残りの14人が必死に耐えてしのぐ。LO大内は相手ボールのラインアウトをゲット。スクラムも前半ためていたパワーを爆発。FL中村はタックル、起きてまたタックルと懸命の働きを見せる。
長い長いシンビンの10分を耐えて、CTB村尾が戻り、さあこれからという時にほんのわずか六甲防御にほころびができた。33分、タマリバ俊足WTB山岡がすり抜けてゴールへ、FB玉川、WTB市橋がゴール隅まで追い込むが間に合わずにトライを許す。10対10。ラスト5分で再び勝負は振り出しに戻った。
「さあ楽しくなってきた!」ピッチ内から誰かが発した雄たけびが聞こえてきた。両軍とも「ゾーン」に入ったように、極限の攻防が繰り広げられた。PKを狙うSH谷はボールを中央陣に集めるが、タマリバ二の矢三の矢が凄まじく早い。それでもボールを前に前に持っていく六甲ファイティングブル。ジャージの背中を仲間と支えてくれる人たちの声援が押す。
ロスタイム。攻め込まれてもほとんど反則を犯さなかったタマリバに長い笛が鳴り響く。
谷主将が木村レフェリーに時間がないことを確認して、ショットを選択。
そして…。
ノーサイド。ピッチには勝者も敗者もいなかった。ただ自分を信じ、仲間を信じ、支えてくれた人々の想いを背負って80分、力の限り戦い抜いた男達の壮絶なドラマがそこにあった。
トップリーグや大学ラグビーにも負けない、日本のクラブラグビー最高峰の戦いをもっと多くの人々に見てもらいたかった。
六甲ファイテイングブルは抽選で決勝進出の権利を獲得することができなかった。
やはり同点でシーズンを終えた2年前よりも運命は厳しいものになった。
3年目の集大成を目指し、「負けずにシーズンを終えなければならない」想いを、六甲ファイテイングブル主将・谷晋平は、抽選室でタマリバ・阿倍主将への握手にこめた。
今シーズンも多くの人々に支えられ、共に戦い抜いたシーズンだった。
全ての皆様に感謝申し上げます。
六甲ファイティングブル。
今はただ走り抜けるのだー。
(三宮清純)