我慢の先に
ジト~っとしたまほろばの風がまとわりつく天理・親里球技場。2018年・六甲ファイティングブルの公式戦はここから始まる。
「もうこの試合から、全国大会を意識していきましょう」と円陣で副将の安部がメンバーを見渡す。この日はLOに入った中村圭主将も「初戦だからと言って、特別なことは言いません。最初、どれだけ我慢ができるか。練習通りのことをやれるか」ー。
奈良ムースのキックオフで始まった。序盤はムースが流れをつかんだ。10代のHB団が積極果敢にボールを動かし、六甲陣に攻め込んでくる。六甲も攻勢にに出るが、汗と雨でボールが滑り、ミスを重ねる。早くトライを決めようとしたのか、パスの精度が悪く、焦りが粗さが目立った。
0対0のまま前半20分過ぎにウォータ―ブレイク(WB)が入る。
「(奈良ムースが)もし勝つことがあったらラグマガに載せてもらうことになってんねんけどなあ」と、ムース関係者も少し興奮気味だ。
「なかなか点が取れないのは当たり前なんです」。給水時間帯に中村圭主将がメンバーをまとめていく。
「どのチームだって、最初は勢いがある。キツイ時間帯や上手くいかない場面をどれだけ我慢できるか。手堅く、敵陣でしっかりやりましょう!」
その言葉通り、WB直後の21分、敵陣22㍍に入った六甲はラインアウトからモールを押し込む。しかし、ムースの執念のデフェンスでグラウンディングが認められない。ならば、とスクラムをグイっと押し込みトライ。安部のゴールも決まって7-0.直後の27分にはラッシュプレーからSO中村健がトライ。31分には相手スクラムをターンオーバー。最後はCTB衣川がトライ。39分にはFB安部が鮮やかにカウンター攻撃からトライを決めた。安部は前半終了間際にPGも決める。前半残り20分で六甲は一気に31点を稼ぎだし、ハーフタイムとなった。
前半「溜めてきた」分を、後半の最初から六甲は爆発させる。
2分、4分、9分とトライをあげ、奈良ムースの足が止まった。
「まだチームが熟成中の中で、前半しっかり我慢できたから流れを取り戻せました。自分たちがやろうとしているプレーはいくつか形になりそうな場面もあった」(安部副将)
この日は出場23人中、実に9人が新戦力、復帰のメンバーだった。いきなりの司令塔先発デビューとなった。「最初は緊張しましたが、徐々に慣れてきて楽しくプレーができました」。九共大出身。7月に正式に関西配属が決まったばかりとあって、「もっと積極的にコミュニケーション取って上手くゲームをコントロールできるようにしたいです」と抱負を語った。
2年ぶりに六甲に帰ってきたSH瀧村。春先から7人制などでNZ留学の成果を見せているが、この試合でも後半途中からの出場ながら軽快な動きを見せた。18歳の時、大学のラグビー部に入らず六甲クラブの門をたたいた。入部当初はやはりサイズ幼さが目立っていたが、単身で2度の渡る海外修行の経てかなりたくましくなった。「スキルはもちろん、ラグビーに対する意識が変わって、それがプレーにも出ている」と主将、副将も口をそろえる。
結局後半は7トライを奪い、70-7でのノーサイドとなった。
「全体的に前に出るプレーが出てよかったんとちゃうかな。でもプレー一つ一つの精度がまだまだ…」(北迫コーチ)
「シーズン初戦としては良かったと思います。やはり最初、どれだけ我慢して、粘り強くデフェンスして得点を重ねていくことができるか。まだまだ始まったばかりなので気を引き締めて次の試合の準備をしていきたい」(中村主将)
もちろん苦言は忘れない。榎村GMがノーサイド後、やや緩みがちな雰囲気を引き締める。
「今日の試合、(選手)個人個人でどれだけ意識して準備してた?アップやキックオフまでの時間の過ごし方を見てると、もっと意識して準備することができると思う。勝ったことはいいけど(終盤)足つる選手もいたしね・・・」。
春シーズン、決してベストとは言えない内容だった。多くの新戦力が入っているが、それだけに全国大会までに積み重ねていくものはまだまだたくさんある。
辛抱は我慢。
六甲ファイティングブル。
今はただ走り抜けるのだー。
(三宮清純)