穏やかな秋晴れだった京都・吉祥院球技場だが、試合前の15時過ぎには日も陰り冷え込んできた。
「近畿リーグ最終戦ですが、やることは変わりません。しっかりとコミュニケーション取りましょう」(中村主将)
相手は文の里クラブ。今季は調子を落としているとはいえ、大阪トップの実力チームだ。
キックオフ直後から六甲がスパークする。敵陣深く攻め込み右に展開。“斬り込み隊長”のCTB藤坂が豪快にライン際を走り切りトライ。安部のゴールも決まって7-0と先制する。
お次はスクラムだ。ゴール前、8人一体となってググっと押し込む。玉出しが乱れたが№8高原が落ち着いてタッチダウンする。
続く7分にはLO田村が抜け出した所にFB安部がフォローに入り左中間へ。開始10分で3トライを奪い六甲が試合の主導権を握った。
10分過ぎに文の里に負傷退場者が出て、会場はやや重たい雰囲気になったが、気持ちを切り替えて六甲は攻撃を続ける。
「FW、BKともよく喋ってコミュニケーションが取れていい感じでした」(中村主将)
その後も和田、三木、安部のバックスリーが次々とトライを決めて、前半だけで10トライ。62-0でのハーフタイムとなった。
「AT、DFもしっかり前に出る意識ができている」(北迫コーチ)。
文の里もキックオフの猛タックルや要所での強い当たりで意地を見せるが、次第に足が止まってきた。後半に入ると六甲は次々とフレッシュなメンバーを投入してさらに攻撃を加えていく。
故障明けのLO福島清は今まで出られなかった分、攻守に大暴れ。本人はしんどそうな顔を浮かべてたが、北迫コーチは「交代はハナから考えてない」とフィットネスを上げさせるためフル出場。完全復活へペースを上げる。
もう一人のLO田村も再三ゲインラインを突破してチャンスを演出。ラインアウトでも安定したところを見せた。「孤立する場面も多かったとので、そこは気を付けていきたい」。LO・三列の競争が激しい今季、楽しみな選手が増え、チームの雰囲気もより全国へ意識の高いものになってきている。
19分には代わったWTB木村がゴール右隅に“ハニカミトライ”。「いや、もうあそこは人数余ってたんで、ごっつあんトライですよ」。大学同期の谷・前田から「7年ぶり!国立以来!」の声援にさらに頬を赤らめた。
新旧二人のSOが試合を自由自在に操った。先発の中村健は試合を重ねるごとに安定感が増していき、時折思い切りのよいアタックが魅力だ。
その中村の20歳年上、42歳になったSO由良も久々のFB公式戦。面白いようにボールが動き、前に出る。BK陣はまだまだファンタジスタから教わることは多い。
後半も7トライを重ね、終わってみれば17トライで107点の大台に乗せた。文の里の意地の猛攻に停滞する場面があったが、リーグ最終戦を無失点で締めた。
「(内容が今イチだった)芦屋戦の反省点をしっかり改善できたと思います。デフェンスも反則を犯すことなく、よく我慢できたと思います」(安部副将)
これで近畿リーグ4年連続全勝優勝、25回連続25回目の全国大会出場を確実なものにした。しかし中村主将は厳しい表情を崩さなかった。
「前半はアタックデフェンス共によかったと思いますが、後半ラスト15分、受けに回った時間があった。代わった選手は(試合の入り方が)難しいと思うけど、もっと激しくやってほしい」。
北迫コーチもあえて厳しい言葉を続ける
「後半30分過ぎずっと受けてたところがアカン。攻撃される中で前に出るタックルが数回しかなかった。点数が開いた時こそもっと意識しないと」。
全国大会まであと2カ月足らず。各地で代表が決まりつつある。主将も副将も「ここからが本当の勝負」と口をそろえる。それはクラブのメンバー全員が同じ思いだろう。
「全国で対戦するチームはどこもパワーがあってこれまで以上に厳しい戦いになります。1戦1戦100%の力を発揮できるようにしっかり準備したいです」(中村主将)
「この試合を基準としてさらに運動量や動きの精度を上げていきたいです。そして必ず日本一になります!」(安部副将)
「ここからの時間が本当に大切になってくる。今まで練習してきたことの更なる精度アップ、レベルアップを重ねて、必ず喜んで終われるシーズンにしたいね」(北迫コーチ)
W杯日本大会を控え、ラグビー人気は高くなっても、クラブラグビーの注目度は低いかもしれない。それでも全国大会では、日本代表やトップリーグ、大学ラグビーにも負けないプライドをかけた熱い戦いが繰り広げられる。
六甲ファイティングブルのメンバーである以上、選手たちは全国のピッチを踏む権利とそこに向かって努力をする義務がある。
「絶対にこのポジションは渡さない」
「1分でもいいから、全国大会に出てやる!」
年齢なんか関係ない。互いに認め合う仲間だからこそ、譲れない戦いが始まる。そしてそれがチームの力になっていく。
六甲ファイテイングブル。
今はただ走り抜けるのだー。
(三宮清純)