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全国大会準決勝雑観その②

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夢のあとさき

 ああ、終わっちゃった…。

 2月2日、15時45分過ぎ。ノーサイドを告げる佐藤芳昭レフリーの笛が鳴り響くと、六甲ファイテイングブル主将・中村圭佑はヘッドキャップを外し、ゴールに背を向けた。

 主将3年目のシーズンが、道半ばで途切れた背番号「7」を瑞穂の夕陽が切なくさした。

「勝てずに本当に申し訳ないです・・・」

 創部50周年記念のシーズン、公式戦では今季初といっていいタイトな相手、「鬼門の瑞穂」…。アップからチーム全体がどことなく固くなっていた。試合が始まり、攻め込んでもなかなか自分たちのペースがつかめず、気合いが空回りして時間だけがあっという間に過ぎていった。

 「本当にヒガシで日本一になったんかいな?」

 中村の第一印象である。2016年5月、神鋼灘浜グラウンドで行われた英国の伝統クラブ「キューオケイジョナルズ」と「神鋼OB・ワールドOB・六甲クラブ連合軍」の親善試合だったと記憶する。「僕なんか試合出ていいんですかね・・・」。体もそれほどゴツくなく、フニャッとした受け答えに花園や、大学でならした面影を感じることはできなかった。

 だが、後半の残り20分からピッチに入ると、190センチ級の相手選手を次々となぎ倒し、執拗にボールに絡む姿に「あいつ、マジですげえな」と観戦するチームからため息がもれた。

 仲間のやや強引な勧誘もあったが、六甲に入ると次元が違う攻守の動きでたちまちチームの中心になり、仲間の信頼をすぐにつかんだ。中村自身も「はじめはそんなに真剣にやるつもりはなかったんですけど、雰囲気が本当に楽しくて、」と溶け込んでいった。

 翌年、異例のチーム2年目で主将に推される。「ケイスケはプレー以外では、あまり自分の意見を言うタイプじゃないけど、大丈夫なのかな?」と関学時代の先輩が心配するように、当初は話し方もぎこちなかったが、時がたつにつれてその言葉は次第に熱を帯びるようになっていった。

 「高校や、大学の時は、年齢やプレーのレベルがある程度同じ選手が集まりますが、クラブチームは違います。10代の若い選手もいれば、40代のベテラン選手も多い。元トップリーガーもいれば初心者から始めた選手もいる。ラグビーのバックボーンだってそれぞれ違った人達が集まってくるのが六甲クラブ。そんな人達と色々工夫しながら勝っていくのが本当に楽しいです」

 練習や試合、自分のプレーする時間を意識して大切にして欲しいー。中村はメンバーに意識改革を求めた。

 「クラブチームだから、練習時間は限られている。だからこそその時間を大切に集中して欲しいんです。僕らはサラリーマンだし、仕事もや家庭もある中、時間を作って集まります。前の晩に飲み過ぎることだってあるでしょう。そんな時こそ、始めから自分の力を出し切って欲しいのです」

 厳しいだけではない。主将は多くのメンバーに心を配る。ある日の練習風景だった。経験の浅い選手に対して中村は「ただやみくもに練習するんじゃなくて次のポイントでどんな動きをするか、次のプレーでボールはどう動くのかを予測しながらやると、グンと良くなってきますよ」

 決して偉ぶらないその人柄に多くの仲間が集まってくる。

 もちろん自分に対しても人一倍厳しい。2018年シーズンの全国大会では不慮の体調不良で初戦を欠場。「2試合分やらなきゃ」と決意を秘めた準決勝でも結果が出せずに、「試合に出られなかったメンバー、支えてくれる方々に本当に申し訳ないです」と、こちらが気の毒になるくらい号泣する姿に、「なんとしてもケイスケを日本一の胴上げをさせたい」と仲間は誓ったものだ。

 主将として迎える3シーズン目。個人的には年末に結婚式を控え、仕事も家庭もチームの成長もほぼ順調かに見えたが、秋のリーグ戦直前にその知らせは突然やってきた。

 東京に栄転。サラリーマンでもあるクラブラグビーマンの宿命だ。チームには痛いが、東京のど真ん中で勝負をかける「人生の分岐点」。チャンスでもある。週末に関西に帰り参加する機会が限られるようになった。

 「リーグ戦など本当に副将の安部さんには迷惑をおかけしたんですが、逆に陸(上田)や健人(中村)がチームを引っ張ってくれて、次の世代にうまくつながっていく流れになって来ていると思いました」。

 「本格的にプレーするのは今季が最後」

 と決めて臨んだ全国大会。初戦、2回戦と順調に勝ち進んだ。

2回戦の岡山クラブ戦では、わずかな時間だが、東福岡高時代の「相棒」FL水上彰太とプレーするシーンがあった。

 必勝を期して臨んだ準決勝。気合いが空回りしてなかなか上手くいかない戦況。緊張の糸が途切れないように何度も身体を張り続けた。ハーキュリーズとの激しい死闘に頭部を負傷、流血。終盤はヘッドキャップをかぶって必死の逆転を試みた。

 無情のノーサイド。感慨に浸る間もなく、慌ただしく着替えてファンクションを行い、時間に追われるように帰り支度を整え、

最後のミーテイングとなった。

 「毎年同じ内容になっちゃいますが…。本当に勝てずに申し訳なかったと思います…」。

 俺たちのキャプテンは途中で言葉に詰まり、上を見上げた。主将最後の話は笑顔で終わりたい。涙を必死にこらえた。

 「負けたら本当に悔しいですね。もっとやれたんじゃないかなと思い返してしまいます。でも主将をやらせていただいて本当に充実した時間を過ごすことができました。3年間こんなキャプテンを支えていただき、本当に有り難うございましたッ」。

 少しカミながら、涙が入り混じった笑顔で頭を下げた中村圭佑に、クラブの仲間から惜しみない拍手が送られた。

 解散後、中村はチームバスとは逆の東京行き新幹線に乗り込み、目のパッチリした愛妻の元へと急いだ。明日からまた仕事。満員電車に揺られながらの毎日が始まる。

 全てのことが思い通りにいくなんてことはありはしない。創部50周年の年に主将を任されたプレッシャー、仕事や東京からの試合参加など言い訳せずに、悔しさをグッとこらえて笑顔を見せた。

 「のぞみ」の流れる夜景に六甲での思い出が走馬灯のように駆け巡ってくる。今はただ、ゆっくり休んでほしい。

 ケイスケ、お疲れ様

 そして、ありがとう。

 (三宮清純))

 


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