今の立ち位置
4月の関西セブン、5月の兵庫県セブン、6月の兵庫県選手権など春シーズンの公式戦、練習試合が中止となり、また緊急事態宣言中の練習内容も制限されるなど、五里霧中での活動が続いている。
緊急事態戦が解除となり、待望の実戦機会がやってきた。名古屋クラブとの定期戦。会場は昨季全国大会準決勝以来となるパロマ瑞穂ラグビー場。もちろん参加者は当日朝の検温、入場の際にも検温、今まで以上の感染防止対策を施してのゲームとなった。
「チーム戦術の実行、ミスを恐れずコミュニケーションをしっかり取ること」
と、中村新主将は試合前にテーマを掲げた。
・準決勝タマリバ戦以来の約5カ月振りの実戦
・相手はいきなり全国の強豪名古屋クラブ
限られた練習環境の中でどこまでチームの方向性が浸透できているか。「今の力」を見極める絶好の機会。不安と期待が折り混ざる中でのキックオフとなった。
立ち上がりから六甲は名古屋陣深く斬り込んでいく。昨秋から加入しているHO古澤、LO糊谷が小気味よく前進してチャンスを広げる。だが名古屋クラブ伝統のデフェンスが低く鋭く突き刺さりトライを許さない。
ラインアウトもほぼ安定、敵陣で有利に仕掛けていく。「(限られた練習時間で)チーム戦術の理解が思ったよりできている」と副将の鶴﨑はある程度の手応えをつかんだ。だが、約5カ月ぶりの実戦とあってか、勝負所で細かいミスも目立ちなかなかリズムに乗ることができない。
それでも前半27分、WTB藤坂が斬れこんでゴール前ラッシュから右に展開。最後はCTB髙橋が回り込んでトライ。5-0と六甲が先制する。
ここからリズムに乗るかと思われたが、名古屋クラブの執念のデフェンスもありスコアを重ねることができない。全国大会常連の名古屋は攻め込まれても決して慌てることなく、激しいブレイクダウンとジャッカルで六甲のチャンスを摘み取っていく。
久々に試合ができるうれしさでベンチに戻ってくる選手の表情も明るい。「いい形でゲーム運びができている。後半、どんどんメンバー替えていきますが、前半と同じようにしっかりプレーしていきましょう!」(中村主将)
後半も早々から六甲は敵陣に襲いかかる。LO木曽などが身体を生かしてゴールラインに迫る。最後は48歳のFL「カッチカチおじさん」西谷が飛び込んだがグラウディングが認められず無念のノートライ。
互いに50年以上の歴史を誇るクラブの定期戦は、両軍譲らず緊迫した状況が続く。後半の終盤。ここまで我慢を重ねていた名古屋クラブの執念が爆発する。ゴール前に入り、スクラムでプレッシャーをかけ続け六甲の反則を誘う。再三反則を繰り返した六甲に、ついにレフェリーは「認定トライ」の判断を下した。
ラスト数分、逆転を信じて六甲は最後の攻撃を試みるが、無情のノーサイド。8ー10。今季初実戦を勝利で飾ることはできなかった。
「うーん、なんかもったいない試合だったね。あれだけ攻め込んでてトライを取れる場面も結構あったよね。個々でもいいプレーがあったのに…」
とは今回の遠征団長を務めた50歳WTB井上ペーウーだ。それは同じ思いを持った選手たちも多かったようだ。
「継続性がまだまだ」
「やってきたことはできたけど、細かい工夫が必要」
「自分たちのミスで自滅した感が強い」
「アタックの時、もっと思い切っていけばよかった」
五ヶ月ぶりの実戦、自分たちの思うとおりにできなかったほろ苦さがが身にしみる。やはりラグビーは奥深い。それでも主将、副将は前向きに捉える。
「土台は安定してきました。要所要所の細かいミスや戦い方に工夫が必要ですね」(鶴﨑)
「FWは粘り強くアタックしてくれたし、BKも新戦力が頑張ってくれてました。でも「チーム力」としてはまだまだと感じました」(中村主将)
この試合、多くの新戦力が躍動した。
先発CTBを任されたのは今春社会人になったばかりの山下大輝だ。兵庫の古豪・星陵高出身。「まだまだコミュニケーションが取れずにやりたいことを全部ができなかった」と唇をかむが、しっかりと身体を張ったデフェンスで頑張った。「六甲クラブは日本一を目指しているだけあって、熱い気持ちで戦っている。今後も試合に出させてもらえるように尽力していきたいです」
と語るのは六甲クラブでプレーしながらトップリーグのステージを目指すWTB竹中だ。名古屋クラブはかつて所属していた古巣、2年前決勝進出の原動力にもなった。「このご時世の中、素晴らしい環境でプレーできたことに感謝したいです」と旧友達との再会を喜んだ。「試合は自分たちのミスが続き,自滅してしまった感があります。しっかりと修正して秋のリーグ戦に備えていきたいです」
全体練習後でも僅かな時間があればインターバルダッシュなど自己の鍛錬遠欠かさない。自分の夢に真剣に取り組む姿を見て刺激を受ける仲間も多い。
今年も「愛知ラガーマンの聖地」で行われた定期戦。試合後はいつも名古屋クラブの手厚いおもてなしで缶ビールをガンガン開けて盛り上がるのだが,今年は感染対策上、それも自粛。試合終了後,すぐにハーフライン付近でエール交換、MOM表彰となった。
緊急事態宣言が明けても、練習グラウンド確保など、クラブチームの悩みは多い。それでも互いに知恵を出しながら日本一を目指す情熱を持った仲間が名古屋にもいることは本当に心強い。今年もコロナに負けないクラブラガーマンの熱い絆が結ばれた。
名古屋クラブの皆さん、本当にありがとうございました。
(三宮清純)