『勝ちある2点』とするために
ノーサイド直前。ラインアウトからのモールを六甲は執念で押し込み、インゴールになだれ込んだ。
その直後のコンバージョン。FB安部は「いつも通り」を心に念じながら蹴り上げたが、ボールはわずかに右にそれた。同時に山谷レフェリーのノーサイドを告げるホイッスルが鳴り響いた。
32ー32。
「戦国近畿リーグ」を改めて痛感する、互いに最後まで息が詰まる死闘だった。
昨年のリーグ戦でも14ー7と接戦を演じた京都アパッチ。シーズンオフの昨冬から積極的な練習、大人数での活動がSNSで配信されており、選手層も元近鉄SH住吉や、関西大学Aリーグで活躍した若い実力選手を集め、チーム力は急上昇している。
序盤は互いの腹をさぐりあう立ち上がり。アパッチがPGで先制すると、六甲もFB安部のPGで3-3。激しいブレイクダウンの攻防が続く。
前半13分。六甲は中央付近の連続攻撃から左に展開。FB安部がひらりと相手防御をかわして左中間にトライ。ゴールも決まって10ー3とするが、アパッチもすぐさまトライを返す。
六甲はトライを取った直後の自陣でのデフェンスがやや淡泊だったか。隙を突かれて前進を許したり、十分にケアしていたはずのハイタックルでもレフェリーの笛にうまく順応できずに反則、それが失点につながっていった。
アタックではLO木曽の力強い突進からのトライ、CTB藤田のトライで波に乗れるかと思ったが、特に前半終了間際に踏ん張りきれずトライを許し、24ー22での折り返しとなったことは、心理的に大きなプレッシャーにもなった。
試合を通じて六甲の「若さ」が出てしまった印象だ。後半早々、アパッチに逆転トライを決められ24ー29と逆転されると、ザワザワ感が増していく。「早くスコアをしなきや」の気持ちが強すぎて、気合いが空回りして敵陣に入って痛恨のミスが続く。
その後は互いにPGを入れ合って27ー32。ベンチから交代指示を務めるTD谷「慌てなくていい、時間はある」と声をかけ続けるが、はやる気持ちがでプレーの精度がもろくなり、ミスを呼ぶ悪循環に陥り時間だけが過ぎていく。
ようやくチャンスをものにしたのはラスト2分だった。アパッチ陣で反則を得た六甲。レフェリーに時間を確認してタッチキックを選択。ラインアウトモールに最後の攻撃を仕掛ける。
「負けてたまるか!」の気持ちが一体となって最後はFW・BKが執念の塊になってインゴールになだれ込んだー。
「本当にゴメンー」。
コンバージョンが外れ、FB安部は手を合わせながら頭を下げた。もちろんそれを非難する者は誰もいない。
「勝ちきれずに申し訳ないです」(岡田主将)
「ノミネートミス、ハンドリングミス、あげればキリがないほど情けない試合をしてしまいました」(FL安居)
勝ちたかった。
勝てなかった。
負けなかった。
試合メンバー、スタッフに様々な思いが交錯する中、試合後すぐに円陣が組まれた。
何がいけなかったのか、何が足りなかったのか。
「気持ち」のこと「メンタル的」なこと「誇り」のこと。
想いを多くのメンバーが口にした。中には必死に涙をこらえながら語るメンバーもいた。仲間の言葉を耳にすると改めて自分たちに足りないもの、やらなければいけないことを確認していく。
「負けてないんだから、引きづったり、下を向くことは全く必要ないと思います」
ケガで給水係としてサポートした副将の北畑は、しっかり前を向くことを強調した。結果からは悪いことばかりに目が行きがちだが、いいプレーも沢山あった。
「アタックもデフェンスももう少しまとまっていけば、もっと上に行ける!と感じました」(PR李)
エナジーを感じる場面も沢山あった。何よりも最後まで死闘を演じた経験が今後のリーグ戦に生きていくだろう。
接戦の時、ピンチの時、苦しい時。
自分に、仲間に、チームにどう寄り添えるか。
互いに支え合うラグビーの原点をもう一度感じた試合だった。
初戦に続いて本当に貴重な経験をさせてもらった。
戦国のリーグ戦はここから佳境に入っていく。
『勝ちある2点』とするために。
六甲ファイテイングブル。
今はただ走り抜けるのだー。
(三宮清純)