誇りを背負って
キックオフ直前。天理大白河グラウンドに降り続く雨足は急に激しくなった。
円陣の中で榎村GMが声をかける
「(前回の)関学戦の反省を生かそう。始めから100%でいかないと勝てないよ。始めから全力でやろう!」
千里馬クラブのご厚意もあり、春シーズンから近畿リーグ王者に挑戦できるチャンスをもらった。事情で20分×3本の変則形式となったが、何十年も関西のクラブラグビーを盛り立てて来た両クラブ「伝統の一戦」であることには変わりない。
「マサミさん(榎村GM)が100%って言いましたが…」
キャプテンの安翔大は円陣の仲間を見渡し、こう続けた。よく知る仲間もたくさんいる相手。大阪朝高のソックスを履き『特別な一戦』に臨む。
「120パーセント!最初のタックル、プレー、全てに120%でいきましょう!ミスしてもOK、思い切りチャレンジしましょう!」
1本目。千里馬のキックオフで始まった。互いに敵陣エリアを目指してキックを多様するが、雨でボールが滑るのか、六甲はファンブルが目立ち、自陣での戦いが多くなった。なんとか局地戦でしのいではいたが、15分、ゴール前ラインアウトから千里馬に完璧にモールを組まれ、左中間に先制トライを許してしまう。
「トライ取られたらすぐハドル。給水入れて気持ちを落ち着かせて僕の目を見て下さい」ー。
試合前、いや、普段の練習から安主将が口にしているように、六甲はインゴールで気持ちを切り替える。
チャンスはすぐにやってきた。直後のキックオフだ。WTB三木がプレッシャーをかけてマイボールとすると、ポイントからFL岩下が逆目のスペースをついて前進。№8三﨑が連続攻撃でフェイズを重ね、最後はFL岡田が相手タックルをかわして左中間にトライ。FB安部もキッチリとコンバージョンを決めて7ー7の同点とする。
ラウンド間の休憩時間は5分。手短に修正ポイントを上げていく。
「ボールを簡単に放している場面が多い」
「バックスのキックにFWもしっかり走ってプレッシャーかけないと」
2本目。多少のメンバーを入れ替えて臨んだ。
序盤から六甲はアタックをしかけて敵陣にせまるが、トライところでパスがつながらなかったり、ミスもありゴールラインが遠い。
逆に千里馬はBKに元パナソニックのノアをCTBに入れて突破を図る。
7分、六甲は自陣ゴール前でのマイボールラインアウトのミスから一気にピンチに。千里馬FWのパワープレーは何とか凌いだが、数的有利を作られ外に展開されトライを許す。
嫌な流れを変えたのが、この日「六甲デビュー」を果たした2人の選手だった。
まずはWTBの脇田だ。千里馬のアタックに味方タックルに素早く反応しジャッカルに成功。ピンチの芽を摘んだ。
そしてSH下村だ。ゴール前、六甲は1本目のお返しとばかりにラインアウト&モールで攻め込む。モールがちぎれて単発攻撃に。順目にさばいていた下村はFWの寄りが遅いとみるやひらりと逆目に身を翻し、空いたスペースに同点のトライを決めた。安部のコンバージョンも決まって14ー12と逆転に成功する。
六甲は強力助っ人のFL井上の活躍もあり、攻撃のムードも良くなってきた。
残るは3本目の20分のみ。
「(過去3回の)千里馬との試合は全部後半に逆転されている。もう一度0ー0の気持ちで、チャレンジしよう!」
下村―伊藤のHB団が左右自在に仕掛けて行く。41歳の「オールドルーキー」CTB赤井も力強いランでチャンスを演出する。
敵陣でのポイントでLOスンギが鋭く反応してターンオーバー。思い切りよく左に展開してWTB三木にボールが渡った。
「もう60分も出されてホンマしんどいねんけど」という口とは裏腹に鋭い切れ味のステップで千里馬DFをかわしてインゴールに回り込む〝千両役者〟ぶりを発揮した。
千里馬も負けじと強力FWの重たいアタックと突進で1トライ1ゴールを返して21ー19。最後まで勝負は分からなくなってきた。
ラスト3分。スクラムからベテランフォロントローが必死に出したボールをSH下村は逆目に展開。FB安部からボールはWTB脇田へ。今春、転勤で関西にやってきた高鍋高出身のWTBはゴール右隅に飛び込んみ、トライが認められて26ー19でのノーサイドとなった。
20分×3本の変則、練習試合とはいえ、キャプテンになっての初勝利。LO安主将は少しほっとした表情を見せ、
「交代がいない中、最後までスクラム頑張ってくれたフロントローに感謝です」と、加村・山田・永田の3人を最初にねぎらった。
「相手が千里馬さんなので、絶対負けたくないという気持ちがありました」(HO山田)
「4回目で初めて千里馬さんに勝てて、ホンマにうれしいです」(FL岡田)
なんとか勝たせてもらったが、千里馬クラブの強力スクラム、FWの圧力はさすがの強さだ。まだ6月。秋の近畿リーグではもっとっもっと強力なチームになっていることは間違いない。
「関学戦より良かった面たくさんありました。だけどまだまだ課題も多い。秋までもっともっと積み重ねが必要」(榎村GM)
「六甲デビューした選手、新しい選手が活躍してくれました。またこれをベースラインとしてがんばっていきます」(安主将)
練習試合とはいえ「伝統の一戦」に4戦ぶりに勝利できたことは何よりもチームに、選手に自信となる。
試合の本数を重ねるにつれて、六甲メンバーの表情が徐々に変わっていくのが分かった。ミスが起きても、トライを取られてもすぐにハドルを組む。強敵相手に今の自分たちの力を出し切る楽しさ、喜び。
ラグビーは楽しい。
勝って仲間と笑顔を分かち合うのは、もっと楽しい。
(三宮清純)