進まざるは退転
ゴールポストをかすめて、旅客機が途切れなくラインディングしていく。
あれはボーイング737、767、777、787、エアバスもプロペラ機のボンバルディアも…。
ここは「マリンフード豊中マルチグラウンド」。大阪・伊丹空港のそばに、昨年オープンしたばかりの天然芝のグラウンドだ。
「芦屋戦の反省を生かそう!」
リハビリ中でこの試合もピッチの外から見守ることになった谷主将が切りだした。
「前の試合、誰ひとり満足してないはずです。相手が同のではなく、自分たちで最高のアップで最高の準備をしよう!」
「前の試合では反則が多すぎて自分たちで流れを落としていた。そこを意識しよう」
相手は、初対戦となる「スーパースターズ」。大阪府の下部リーグからコツコツと実力を積み上げ昨年近畿Aリーグ初昇格にして上位の成績を残した。秋のリーグ戦でも当たる相手、ここでしっかりと強い印象をつけたいところだ。
だが、キックオフ早々、六甲はスクラムでプレッシャーをかけられる。
相手1番の強烈な猛プッシュにターンオーバーを許す。
「まあ、プロップ陣が本職ではない(FL)ので…」と谷主将は言うが、PRに入った島邑は「主将に『しょうがない』なんて言われて、一列は情けない」と発奮してはいたが…。
ラインアウトも一本調子でなかなかクリーンアウトができない。スーパースターズもFWに強みを持ち、接点で猛烈なプレッシャーをかけて、六甲はなかなかBKにボールが回らない。
前半30分あたりまではトライどころか、自陣でのプレーを強いていた六甲。
数少ないチャンスから、CTB寺田が、追い切り不足でやや太め残りの巨体で相手DFをはね返しての先制トライ。こう着した流れをつかみにかかる。
直後には、FLに入った加来が密集で両サイドを警戒する相手防御の穴を見逃さず縦突破。ゴールポスト下に飛び込んだ。副将を置かない中、FWを低いプレーでまとめている。
さらにはケガ明けの司令塔・SO安田が自ら持ち込みトライ。安田は巧みなキックでエリアをばんかいしていく。前半終了間際には№8藤山もトライを決めて、前半残り10分で4トライ。28-0でのハーフタイムとなった。
「あれだけ攻め込まれてノートライに抑えている。ここは自信にしていい」
「FWはもっとセットプレーをしっかりと。相手FWも足が止まってくるはず」
ラインアウトは多少の修正を見せた。相手防御も甘くなる箇所が出てきて、ウンヵ月ぶりに本職に戻ったSH和田も何度か抜け出す場面もあった。
それでも中々トライに結びつかない。
時間ごとに入替メンバーが入り、かみ合わないこともあっただろうが、なかなかいいリズムを作れない。
プレーが高いのだ。
特にFW。抜け出したバックスをフォローするのはいいが、当たりが高く、易々とボールに絡まれ、球出しのテンポが遅くなる。なかには「ボールはここですよ」と言わんばかりの当たり方をする選手もいる。もちろん二人目の寄りが遅いのも原因だ。
DFもそうだ。時間がたつにつれて相手の攻撃、防御も高くなってきた。それに合わせてこちらのタックルも高くなっては流れを変えることは難しくなる。
さらには先発メンバーの運動量も明らかに落ち、ロスタイムにスーパースターズにトライを許してのノーサイドとなった。
慣れないポジションの選手もいた。新人選手もいた。攻め込まれる場面も多かった。
それでいて45-5のスコア。よしとするのか…。
「最後にトライを許した。これが本当に悔しく、残念です」
終了後、谷主将は感想を述べる。
「言い訳はいくらでもできる。この点差はすぐにでも縮まります。相手は『秋の公式戦ではもっとやれる!』と実感したはずです」
もちろん、ナイストライ、ナイスDFもあった。動きのよかった新人選手も多かった。
「全国大会でバーバリアンズと接戦して、周りから色々とねぎらいや激励を頂いているけど、今の僕らはそこまでいっていない。去年と同じことをしていては同じ結果を繰り返すだけです」
皆、もっとできる、もっと強くなれるという実感があるからこそ、主将は自分たちを戒めていく。
昨シーズン、一番悔しい思いをしたのは誰だったか?
同時に日本一になることの難しさ、尊さを感じたのは誰だったか?
俺たちの大好きなラグビー。
もっとこだわっていこうじゃないか。
(三宮清純)